前回の本誌春号では、『感染対策の基本は手指衛生』を掲載しましたが、手指衛生を知っているだけでは感染の拡大を防ぐことはできません。今回は、みなさんで手指衛生を行えるような取り組みを紹介します。
【ツボ1】手軽に手指衛生
医療関連感染を予防するため『手指衛生5つの瞬間』が周知されていますが、必要な場面で手指衛生を行える環境作りが重要です。特にアルコール手指消毒剤は消毒効果が高く手軽に使用できるため、病室前だけでなく、ナースカートやベッドサイド(写真1)への設置、ポーチ(写真2)による個人携行など複数のアクセスポイントを設定することが効果的です。
1回の勤務で手指衛生は50~100回にもなるため、手が荒れやすくなります。施設側が、ハンドケア製品の提供や、アルコール過敏者用にノンアルコール手指消毒剤を導入するなど、手荒れ対策を行って下さい。
【ツボ2】手指衛生の意識付け
手指衛生製品を導入しても、使用しなければ医療関連感染を防ぐことはできません。『毎年、施設内で教育をしているけど、アルコール手指消毒剤の使用量が増えない』とお悩みの感染対策担当者は多いはずです。
手指衛生を意識付けるポイント
- ブラックライトで光る蛍光塗料を用いて、手洗い後や環境に触れた後の手の汚れを可視化(写真3)
- 職員の手や環境面の微生物培養
- ケア場面ごとに、手指衛生と個人防護用具のタイミングを記したマニュアルや動画を作成
- 手指衛生が必要な場所(病室前、回診車、点滴作成台)に手指衛生を促すステッカーを掲示(写真4)
- 手指衛生キャンペーン(全職員より標語やポスター、感染対策動画を募集、表彰)
- 患者、利用者に向けて、施設としての手指衛生遵守を宣言(リーフレットの配布、掲示)
- 手指衛生の評価とフィードバック(後述)
- 手指衛生ができている職員を見かけたら、必ずほめる
- 近隣の感染管理認定看護師へ相談(愛媛県内の登録者数38名:2018年7月現在)
【ツボ3】手指衛生の指標
よく用いられる手指衛生の評価指標には、以下のふたつがあります。
①職場ラウンドで『手指衛生5つの瞬間』の遵守率を評価:『知っている』という質的指標
実際のケアや作業の場面で評価するため、教育的効果もあります。遵守率40%ほどの病棟が、繰り返しの教育とラウンドで遵守率が90%まで改善した例もあります。はじめから高い目標値を設定すると達成できずモチベーションが下がってしまうため、『患者に触れる前後』『手袋を脱いだ後』など、取り組みやすい項目からはじめることをおすすめします。
②アルコール手指消毒剤や手洗い洗剤の使用量を評価:『している』という量的指標
ある期間の使用量(ボトルの払い出し本数や重量計測)から手指衛生回数を算出し(1プッシュが○mlに相当するかはメーカー確認)、それを期間の入院のべ患者数で割ることで1日の1患者あたりの手指衛生回数が算出できます。取り組みはじめは、手指衛生回数が1~2回/患者・日という結果のこともありますが、『手指衛生5つの瞬間』の教育とあわせて『しっかりワンプッシュ』することで増加します。手指衛生回数の目安としては、カルテ記録から患者に触れる回数(バイタイルサイン測定・処置・点滴など)から算出することもできます。
評価した後は必ずフィードバックを行います。そのときは数値の増減だけで一喜一憂せず、要因分析とさらに改善するための実現可能な方法を職員と一緒に話し合うことが、次の結果につながります。
(編集:東予感染管理サークル)
東予感染管理サークル(Toyo Infection Control Circle:TICC)は、地域の保健医療福祉施設における感染管理教育の支援を目的として、東予地域に在籍する有志の感染管理認定看護師によって感染対策セミナーを中心とした活動を行っています。