この冬は、インフルエンザと新型コロナが同時に流行することが危惧されています。そのため、救急部門では感染対策の重要性を再確認し備えることが必要です。
【ツボ1】救急部門の特性
救急部門は一般外来と比較して、①患者の重症度・緊急度が高く、多岐にわたる感染症が含まれる、②患者の事前情報が不足しているうえに、聴取も容易ではない、③患者から感染対策の協力が得られにくい、といった特性があります。そのため、流行性感染症による患者-医療従事者、患者-患者の感染リスクが高くなります。
【ツボ2】感染対策の実際
感染対策の前提として、手指衛生や個人防護具の適切な使用など標準予防策が厳密に適用されなければなりません。そして、患者の状態に応じて経路別感染対策(接触感染予防策、飛沫感染予防策、空気感染予防策)を追加します。ただし、情報が十分ではない中では、感染対策が後手にならないようオーバートリアージも許容されます。
救急部門では迅速性が求められますが、それは感染対策ができない理由にはなりません。この冬、『急ぐからこそ基本を守る』という医療従事者側のパラダイムシフトが必要です。
①情報取集
患者や家族、紹介元の病院、救急隊から情報を得る。主症状以外に、発熱、呼吸器症状、消化器症状、嗅覚・味覚障害、発症前2 週間の行動歴・接触歴など。
②受け入れ準備
医療者は基本サージカルマスクを着用する。濃密な接触や血液体液曝露、感染症疑いなどリスクに応じて、グローブ、エプロン・ガウン、アイシールド、キャップを追加する。気道吸引、気管内挿管、心肺蘇生が予測される場合はレスピレーターマスク(N95 マスク)を着用する。流行性感染症が疑われたら、他者との接触を避け個室などへ誘導する手順を確認する。陰圧換気は必須ではないが、患者退室後に換気が可能な部屋が望ましい。
③患者対応時
可能であれば患者にサージカルマスク着用を試みる。医療従事者は標準予防策を基本とした自分自身を守るための行動をとる。患者に触れた手で、手指衛生のないままパソコンやドアノブ、共有環境に触れることはしない。また、患者に使用した血圧計や医療材料も感染源になることを理解して処理する。
④気管内挿管時の注意点
新型コロナが疑われる患者の気管内挿管は、意識下では実施しない(咳嗽誘発で飛沫、エアロゾルが飛散する)。飛沫を抑えるテントなども市販されている。
⑤情報共有
検査や放射線撮影、受付などを行う技師、事務員にも感染症疑いであることの情報を伝え、接触状況により必要な個人防護用具の着用を説明する。検査機器類をナイロン袋等でカバーすることで汚染範囲を少なくすることができる。
⑥平時の準備
院内感染対策部門と連携し、感染対策マニュアルを作成する。定期的に患者受け入れから挿管、退室後までトレーニングを行う。救急部門担当者は、インフルエンザやB型肝炎、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、髄膜炎菌などの各種ワクチンを接種しておくことが望ましい。
⑦施設管理者側の理解
感染症疑い患者の収容部屋や換気システムの増設や改修などを検討する。感染対策費用の補助を受けられることもあるため、施設の事務部門に相談する。
【ツボ3】患者退室後の清掃
患者退室後の環境表面には、感染源となる病原体が多く付着しています。病原体に応じて効果のある消毒薬を用いた清掃が必要です。ベッドや血圧計など患者に触れた物だけでなく、患者に触れた医療従事者の手が触れたパソコンやドアノブなども消毒清掃対象となります。また、必要に応じて一定時間換気を行います(事前に部屋の換気量を調査し、必要な時間を確認する)。心電図や放射線撮影等の機器は、患者に触れた部分を消毒清掃します。
(編集:東予感染管理サークル)
東予感染管理サークル(Toyo Infection Control Circle:TICC)は、地域の保健医療福祉施設における感染管理教育の支援を目的として、東予地域に在籍する有志の感染管理認定看護師によって感染対策セミナーを中心とした活動を行っています。