採血は、看護職が日常的に行う技術のひとつですが、神経損傷を来した場合、患者さんに障害が残ることがあります。症状は、数日の経過で消失する痛みやしびれから、数年に渡り持続する痛みやしびれ・運動障害まで、重症度は様々です。中には、日常生活に支障を来すほどの障害が残る場合もあります。
採血時の神経損傷は、完全に回避できるものではありませんが、より安全な採血のポイントをお伝えしますので、初心に戻って注意事項を振り返ってみましょう。
1.神経損傷の定義
〈採血時に穿刺した針によって穿刺部位付近の神経が損傷されること〉
採血後に一定の時間が経過した後(通常は翌日以降)も採血部位の近くに存在する神経の支配領域に疼痛、感覚異常、運動機能異常などの神経損傷による症状が残存する場合が問題となります。
2.発生頻度
報告によりばらつきが大きいため、正確な頻度は不明ですが、約1万から10万回の穿刺に1回起こるとされます。
3.採血部位
穿刺する血管は、太い静脈を選択すると事故が少ないと言われています。
より安全な穿刺部位
- 肘窩部の採血では、橈側皮静脈(肘窩部の親指側)が最も安全です。
- 肘窩部で採血できない場合は、前腕または手背の静脈を穿刺しましょう。
注意を払う穿刺部位
- 肘窩部内側の尺側皮静脈は、付近を比較的太い神経が走行しているため、穿刺を避けましょう。
- 手関節部の橈骨皮静脈は、橈骨神経浅枝が近く、正しく穿刺しても神経損傷を来す可能性があるため、穿刺を避けましょう。
4.穿刺方法
- 可能であれば、非利き手から穿刺部位を選びましょう。
- 複数回の穿刺や深く穿刺しないよう、血管を十分に怒張させましょう。
- 採血針穿刺の角度は、皮膚に対して15~30度です。
- 採血が不成功の場合は、他の実施者に交代することも大切です。
- 穿刺に伴う電撃痛やしびれの有無を必ず確認し、訴えがあれば直ちに針を抜きましょう。
- 止血を確実に行いましょう。
5.患者さんへの説明
- 採血中の異常な痛みを我慢しないよう説明しましょう。
- 採血後に少しでも違和感や感覚の異常があれば、すぐに来院するよう伝えましょう。
6.神経損傷が発生した場合の対応
採血時及び後日であっても異常な痛みや痺れ、知覚異常があれば、神経内科や整形外科へ紹介し、受診して頂きましょう。
この他にも採血の合併症には、血管迷走神経反応(VVR)、止血困難、皮下血腫、アレルギー、過敏症などがあります。患者さんの様子を観察しながら実施し、リスクを低減させましょう。
(文責 坪内旬子)